先日の記事では、産業組織分野に心理学的な視点を持ち込んだ科学的管理法について紹介しました。
記事でも紹介しましたが、当時画期的だとされていた科学的管理法は、後に批判を受けることとなってしまいます。
科学的管理法は、なぜ批判されることとなったのか。ホーソン研究はどのようにかかわっているのか、理屈を頭に入れて理解してしましょう。
ホーソン研究の概要
ホーソン研究とは、1924年から1932年、ジョージ・エルトン・メイヨー(George Elton Mayo)によって実施された一連のワークモチベーション研究を指す。研究は、休憩時間の長短と生産能率の研究、作業や待遇に関する労働者の意識調査、グループ分けによる生産能率の研究という3段階に分けて実施された。
研究により、労働生産性に影響を与える決定因は、作業経験や知能、作業環境ではなく、人間関係であるとされた。この結果は、人間が人間関係に動機づけられるとする社会的人間観を反映したものであり、産業組織心理学における人間関係論の基礎を築いたとされる。
また、ホーソン研究では、実験参加者が実験参加者として選ばれたことを自覚し、その自覚が実験結果を歪めたとされる。これは、ホーソン効果として、観察者効果の一種として知られ、後の心理学研究法に影響を与えることとなった。
ホーソン研究の時代背景
第二次産業革命の頃、科学的管理法を提唱したテイラーは、工場内での作業時間を計測し、標準的な作業量を算出、インセンティブ制度を導入するなど、労働生産性を飛躍的に向上させる取り組みを行いました。科学的管理法は、産業界に心理学的観点を取り入れたという点で、画期的だったと言えます。
科学的管理法のように、個人に対するインセンティブを通して、労働者のモチベーションを維持・向上できるとする考え方を、合理的人間観(または、経済的人間観)と言います。
合理的人間観を基にする考えは、資本主義のニーズと合致していましたが、人間に寄り添った考えとは言えません。これにより、科学的管理法は、労働者を機械のように捉えているという批判を受けてしまいます。
ホーソン研究の背景では、労働の中身よりも、労働者の心理的側面に注目が集まっていたといえるでしょう。
試験では、メイヨーといえばホーソン研究で覚えます。しかし、メイヨーもホーソン研究よりも前に、離職率の高い職場に休憩時間を導入して、労働者のメンタルヘルスの悪化を防ぎ、離職率を減少させるなど、労働者のメンタルヘルスを重視した環境構築の研究をしていました。
どの研究がホーソン研究か?
ジョージ・エルトン・メイヨー(George Elton Mayo)は、テイラーの科学的管理法を発展させる目的でホーソン研究をスタートしました。
ところが、ホーソン研究を通して、メイヨーは、科学的管理法に対して批判的な立場をとるようになります。
科学的管理法を発展させようとしてスタートしたメイヨーの考えを逆転させた理由は何だったのか、ホーソン研究の詳細を見ていきましょう。
(ちなみに、ホーソン研究を記事にまとめるにあたって、いくつかの書籍をあたりましたが、1924年にシカゴにあるウエスタン・エレクトリック社のホーソン工場で始まった実験を最初とする書籍と、1924年の実験を受けて、1927年以降に始まる3つの実験をホーソン研究としている書籍とに分かれるようです。
私は、後に続く実験のデザインや予算のかけ方から考えて、メイヨーは、最初の実験よりも、2番目~4番目の実験に本腰を入れていたのだろうと想像しています。
つまり、2番目~4番目の研究がホーソン研究の神髄といえるのではないかなあと捉えています。)
ホーソン研究
最初の実験
最初の実験は、照明が作業に及ぼす影響を調査する目的で実施されました。
いつも通りの部屋で作業する統制群と徐々に部屋を明るくする実験群に分けて実施されました。
メイヨーは、徐々に部屋を明るくした方が生産量が良いだろうと予測していました。そして、予測通り、部屋の明るさを徐々に明るくすると、生産量は向上しました。
一方、いつも通りの部屋で作業した統制群は、何も変わらないと考えていました。ところが、予想に反して、統制群の成績も向上したのです。
そこで、メイヨーは、徐々に明るくしていた実験群の照明を徐々に暗くしました。ところが、徐々に暗くしているにもかかわらず、生産量は向上し続けたのです。
つまり、部屋を明るくしても、同じ明るさでも、暗くしても生産量が向上したことになります。言い換えれば、「作業環境以外の要因が労働生産性に影響を及ぼしていた」ことを示唆する結果でした。
【実験1】
最初の実験結果を受けて、メイヨーは、次の実験に取り掛かります。実験は、工場内で電話継電器という器機を組み立てる工程の女性工員5名を対象とした実験です。
作業の大半は単純作業の反復でしたが、メイヨーは、その作業の合間に取る休憩時間を細かく調整して生産能率の変化を調べました。
その結果、休憩時間を長くする(=作業時間を短くする)と作業効率がUPしたのです。作業効率が上がった後で、休憩時間を減らし(=作業時間を通常通りの時間に戻す)たところ、なんと、作業時間が長くなっても作業効率は上がった状態をキープしたのです。
これにより、休憩時間の長短ではなく、従業員の感情や態度、モラール(士気)が影響しているのではないかと考えられました。
【実験2】
そこで、メイヨーは、実験2と並行して、1928年~1930年の間に、全従業員を対象とする面接調査を行いました。
面接の結果、従業員の感情や態度には、職場の人間関係が大きな影響を与えていると分かりました。メイヨーは、職場の人間関係を抜きにして労働生産性を理解することはできないと考えました。
【実験3】
実験2の結果を受けて、メイヨーはグループでの生産性に人間関係が及ぼす影響を調査します。
メイヨーは、配線工9人、溶接工3人、検査員2人の計14人からなるグループを作り、グループの成果が給与に影響する集団出来高払制度を採用します。
実験の結果、個人の知能や技術的力量にかかわらず、グループの人間関係が労働生産性に影響を及ぼすことが分かりました。
加えて、グループでは非公式に新しいグループ(インフォーマルグループ)が作られます。そして、その非公式グループの中で共有されるルールは、公式グループのルールよりも強い影響力を与えることが分かりました。
新しく着任した上司の指示を無視して、独自のやり方を貫くベテラン従業員などを想像してもらうと良いかもしれません。
ホーソン研究から分かること
1. 仕事は、従業員同士の相互関係によって成り立っており、テイラーが科学的管理法で示したような個人へのインセンティブのみで労働生産性を向上させるには限界がある。
2. 労働生産性は、作業環境よりも職場の人間関係を通して向上させることができるものである。後にマズローが提唱する「社会的欲求」や「承認欲求」が満たされることで労働者のモラールは向上する。
3. 職場内に形成される集団規範は、公式な集団(フォーマル集団)内で共有される規範よりも、非公式な集団(インフォーマル集団)の中で共有される規範の方が労働者の作業習慣や態度に強い影響を与える。