皆様こんにちは、PSYCHOBANK管理人のJayです。今日も張り切って心理学を勉強していきましょう。
さて、前回の記事では、ホーソン研究についてご紹介しました。
ホーソン研究の結果、人間は社会的な存在で、帰属意識や他者からの承認によってワークモチベーションが向上することが分かりました。これにより、産業組織心理学において人間関係論の基礎ができたとされています(ホーソン研究のポイント)。
では、なぜ帰属意識や他者からの承認が、人間のモチベーションに繋がるのでしょうか。心理学者のマズローは、自己実現という言葉を用いてその理由を説明しました。そこで、今回は、マズローの心理学の中心理論である欲求階層説を解説したいと思います。
アブラハム・マズローの人生
親に敷かれたレールの上を歩む
アブラハム・ハロルド・マズロー(Abraham Harold Maslow)は、1908年、ニューヨークブルックリンに生まれます。マズローの両親は、ロシアからアメリカに渡ったユダヤ系移民です。
また、マズローは、7人兄弟の長子として、両親から過分な期待をかけられて育ちます。マズローの両親は、マズローを法律家にしたいと考えていました。両親からマズローにかけられる期待はとても大きかったそうです。
親のレールを外れ、ハーローの下へ
両親の影響により、マズローは、1926年から2年間だけ法律を学びます。しかし、1928年、マズローはウィスコンシン大学に転校し、心理学を学び始めます。マズローが自分の人生を切り拓くために、親の決めた法律家というレールから外れることを決意した時期だったのでしょう。
マズローはその後、ウィスコンシン大学で、ハリー・フレデリック・ハーローと共に働くこととなります。ハーローは、アカゲザルの母子分離に関する研究で有名な研究者です。両親から干渉を受けてきたマズローにとって、興味深い研究だったのではないでしょうか。
ハーローの研究を通して、幼児が養育者に愛着を抱くのは、食事を提供するからではなく、安全を提供するからであると明らかになります。この結果は、それまでの学説を覆す決定的な結果で、発達心理学を始め、心理学に大きな影響を及ぼします。
アドラーに師事する
のちに、マズローは、コロンビア大学でアルフレッド・アドラーに師事します。アドラーは、「人間は『どうなりたいか』という目的にそって、主体的に行動を選択することができる存在だ」としています。
アドラーの考えは、マズローにとって、両親の意向と異なる人生を自ら選択したマズローの人生そのものを肯定するような考えに感じられたのかもしれません。
マズローの出会いを知ると、マズローの理論のすべてが一貫性を持っており、最終的に欲求階層説に至ったことが良く分かります。
マズローの心理学
精神的本性
マズローは、自身の著書の中で、マズローの心理学における前提となる「精神的本性」について、次のようにまとめています。
①人間には、生まれ持って備わった精神的な本性(何かを成し遂げようとする意思のようなもの、資質)がある。精神的本性は、自然で、基本的に不変である。
②精神的本性は、個人でも、人類的な規模でも独自のものである。
③精神的本性は、科学的に調べ、どのようなものかを発見することができる。
④精神的本性は、本質的に中立、または、より善である。悪い行動は、精神的本性が妨げられた結果として生じる二次的な反応である。
⑤精神的本性は善なので、抑制することなく、引き出し、励ます方が良い。精神的本性を発揮できる状況において、人間は健康で、幸福で、生産的になる。
⑥精神的本性が認められなかったり、抑えられると、人間は病気になる。
⑦精神的本性は、弱く、繊細かつ微妙で、社会的な要因(文化や慣習など)によって簡単に圧倒されてしまう。
⑧一方で、たとえ圧倒されたとしても、精神的本性は心の底に残り、絶えず本人に実現を求め続ける。
まとめ
「人間には、精神的本性という潜在的な欲求が存在し、人間はそれを無くすことはできない。欲求を抑圧したとしても、病気になるか、欲求を実現するように絶えず求められる。欲求を抑制せずに引き出すことで、人間は幸福になれる。」
精神的健康
また、マズローは、病気の人よりも、健康的な人や自分の才能を発揮することができている人を対象に、その精神的健康や欲求を調査しました。マズローが精神的健康としてまとめたのは次の通りです。
マズローによる精神的健康の定義
①明快で正確に現実を捉えている。
②経験的に開かれている(ありのままの自己で、現実と向き合い、現実を経験することができる)。
③人格の統合性、全体性、結合の増大が見られる。
④自発的かつ表現豊かで、精神的に完全な機能、活力がある。
⑤ありのままの自己を認め、確かな自己同一性、自律性、独自性をもつ。
⑥自己の客観性を保ち、自己を離れ、自己を超越することができる。
⑦創造力豊かである。
⑧具体性と抽象性を融合する能力がある。
⑨民主的な性格構造である。
⑩愛する能力がある。
マズローが定義した精神的健康は、抽象的で曖昧さをはらんだ表現と言えます。一方で、上にあげた10項目は、カウンセリング等の支援で必須の確認事項と言えます。実践でとても役立ちますので、覚えておきましょう。
欲求階層説
先述した通り、欲求階層説は、「人間が何に向かって動機づけられるのか」という点を階層的に示した理論です。
欲求階層説の理論において、マズローは、人間の欲求を、大きな枠組みとして欠乏欲求と成長欲求に区別しました。
欠乏欲求
欠乏欲求は、生理的欲求、安全の欲求、所属欲求、自尊感情(自己承認・自己尊重)の欲求の順で構成されます。欠乏欲求を満たすために人間が動機づけられることを「欠乏動機づけ」と呼びます。欠乏欲求は、成長欲求を満たすよりも前に、満たされている必要があります。
【欠乏欲求(①生理的欲求)】
生理的欲求は、欠乏欲求の中でも最も低次で基本的な欲求です。食欲、睡眠欲といった生理的に必要な欲求がそれにあたります。
【欠乏欲求(②安心・安全の欲求)】
生理的な欲求が満たされると、次は安心安全の欲求が表面化します。ここでの安心安全は、住居や健康状態、仕事の安定性など環境的な安心安全を指します。
【欠乏欲求(③所属意識の欲求)】
環境的な側面における安心安全が満たされると、愛と帰属意識、つまり、所属欲求が表面化します。所属欲求は、友情や愛情、社会から受け入れられている状態のことです。言い換えれば、他者や組織から受け入れられることで、精神的な安定を求める段階と言えます。
【欠乏欲求(④自尊感情の欲求)】
所属欲求が満たされると、次は自尊感情の欲求が表面化します。この欲求は、他者から自らが承認されることや自らの能力を用いて何かを実現したいという欲求のことです。自己実現欲求に似たものと理解されがちですが、実現の先に他者からの承認や報酬的期待がある点で、自己実現とは明確に区別されます。
成長欲求
成長欲求は、人間の高次な欲求とされ、認知的欲求、審美的欲求、自己実現の3段階に分けられます。いずれも、欠乏欲求とは異なり、人は、成長欲求を満たす過程で行動すること自体に動機づけられています。そのため、成長欲求は、欲求を満たすための行動に終わりが無く、永遠に人を動機づけることが出来るとされます。こうした、成長欲求に基づく動機づけのことを「成長動機づけ」と呼びます。
【成長欲求(①認知的欲求)】
知識や理解への飽くなき探求心が認知的欲求に該当します。知識を得ること自体に動機づけられている状態が認知的欲求段階に当たります。テストの点数や合格のための勉強ではなく、自ら進んで学ぶ知的好奇心を満たすための活動がこれに当ります。
【成長欲求(②審美的欲求)】
秩序や調和、美しい状態を求める欲求が審美的欲求に該当します。芸術や自然の調和、美しさの概念は時代や文化によって違いがあります。マズローは、この美しさや調和の取れた状態を追求する行為自体が成長欲求であるとしています。
【成長欲求(③自己実現欲求)】
欠乏欲求が満たされ、成長欲求を絶えず探求する中で、自分自身の可能性を追求し続けたいとする欲求が自己実現欲求です。自己実現の段階を通じて、心理的にもスピリチュアルな意味でも満たされていくとされています。
マズローの欲求階層説まとめ
欲求階層説とは、人間の動機づけに関する理論の一つ。提唱者のアブラハム・マズローは、人間が動機づけられる目標を欠乏欲求と成長欲求の7段階に分けて、階層的に示した。そのうち、欠乏欲求は、低次な欲求とされ、生理的欲求から始まり、安心欲求、社会的欲求、承認欲求へと変化していく。また、成長欲求は、認知的欲求、審美的欲求、自己実現欲求へと繋がるとされる。
また、マズローによれば、人間は、それぞれの欲求を満たすために努力し、欲求が満たされることで、次の段階の欲求が表面化するとされる。
各段階の欲求は、一度満たされると、その欲求充足のために、人を動機づけることはできなくなるが、自己実現を求める欲求は、動機づけが低下しないと考えられている。
マズローの欲求階層説は、心理学の様々な分野に影響を与えたものの、現在は、欲求階層説の理論的正当性は認められないと考えられている。
おまけ
ただ、この自己超克は、よりスピリチュアルなレベルの話であり、「誰かの助けになりたい」というボランティア精神とは明確に区別する必要がありそうです。もちろん、ボランティア精神も尊い感情だとは思いますが、それらはどちらかといえば、コミュニティへの所属意識や承認を求める欠乏欲求が根底にあるように思えます。
マズローが、欲求階層説の先に何を見出したのかはわかりません。ただ、人間にとって理想となる精神状態を追い求める彼の姿勢は、自己実現に向かう姿勢そのものだったのかもしれません。