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公認心理師法のポイントを理屈で覚える(後編)

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みなさまこんにちは

 

前回までは、公認心理師法の第1条~3条までを解説しました。前回の記事はこちら ↓↓ をご覧ください。

 

 

psychobank.hatenablog.com

 

今日は、後半のミソをお伝えしていきたいと思います。

 

<今回の流れ>

 では、第一条~第三条の流れを受け取り、最重要ポイントである四十条~四十二条へとつながる中継地となっている三十二条から見ていきましょう。

 個人的には、三十二条が公認心理師法のバランスをつかさどっている感じがして私は好きです。

第三十二条 資格登録取り消し

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条文

文部科学大臣及び厚生労働大臣は、公認心理師が次の各号のいずれかに該当する場合には、その登録を取り消さなければならない。

一 第三条各号(第四号を除く。)のいずれかに該当するに至った場合二 虚偽又は不正の事実に基づいて登録を受けた場合

 

【第三十二条のポイント】
 三十二条の第一項では、「登録時は良かったけど、後から欠格条項の要件に該当することとなった人の扱い」について書かれています。欠格条項の対象となった場合、登録取り消しです。そして嘘ついて登録した人登録取り消しと定めています。
 
 さて、ここで質問です。
 Q、欠格条項とは何だったでしょうか?
 

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<正解>
 意思疎通等が困難禁錮以上の刑に処されて2年以内、保険医療福祉教育等の分野で罰金刑以上の刑に処されてから2年以内のパターンでしたね。
 意思疎通は問題ないのに登録がダメなパターンは、とにかく2年らしいと覚えてくださいとお伝えしました。携帯の契約更新くらいなので体感は結構長いですね。

三十二条が重要な理由f:id:PSYCHOBANK:20211125145527p:plain
 実は、この三十二条には、第二項があります。これが重要です。第二項には、しれっとこんなことが書いてあります。

2 文部科学大臣及び厚生労働大臣は、公認心理師が第四十条、第四十一条又は第四十二条第二項の規定に違反したときは、その登録を取り消し、又は期間を定めて公認心理師名称及びその名称中における心理師という文字の使用の停止を命ずることができる。

 極めてあっさり、しかし、それでいてしっかりと、公認心理師は、第三条以外に違反した場合にも登録を取り消されると記されているのです。

 さあ、それでは、公認心理師法後半の山場である公認心理師の義務についてみていきましょう。

 恋愛ドラマでいうと、「最初は犬猿の仲だった二人が付き合い始めた頃」が第三条まで、「仲良くやっていると思った矢先、恋人が別の相手と抱き合っているシーンを主人公が見てしまう頃」が三十二条くらいです。 第四十条からは、「でも本当は誤解だったと分かるか分からないかくらいの頃」です。

 

第四十条 信用失墜行為の禁止

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条文
公認心理師は、公認心理師の信用を傷つけるような行為をしてはならない。
 
【第四十条のポイント】
 第四十条は非常にシンプルです。公認心理師の信用を傷つけるような行為をしてはならない。という点のみです。信用失墜行為をしたとみなされた場合、先ほどの第三十二条二項に定められている通り、「登録取り消し」となる恐れがあります。
 問題は、この信用を傷つける行為が何を指すのかです。
 第四十条について、Twitterやブログで色々な方の意見を確認すると「四十条の信用失墜行為が何を指しているか明確ではない以上、合格しても登録はやめた方が良い」と言っている方がいました。
 確かに信用失墜行為とは、あいまいな表現ですが、この資格は心理職の資格です。心理職は、一般的な感覚を理解し、一般常識という物差しと要支援者の福祉に貢献する感覚を持ち、常に最善の選択を求められる仕事です。
 法律の解釈ではなく、要支援者を見立て、要支援者、要支援者の関係者の福祉に貢献できるように十分に周囲と連携・相談しながら配慮ある支援をしているのであれば何も案ずることは無いのではないでしょうか。


第四十一条 秘密保持義務

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条文
公認心理師は、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。公認心理師でなくなった後においても、同様とする。
【第四十一条のポイント】
 第四十一条は、心理職の根幹ともいえるものです。要支援者は、秘密を守ってもらえるという前提があるからこそ専門職を信用し、悩みを打ち明けるのです。仮に公認心理師の秘密漏洩が繰り返され公認心理師に相談しても秘密を守ってもらえるか分からない」となれば、誰も公認心理師に相談できなくなり、資格が意味をなさなくなってしまいます。
 そのため、四十一条違反は、特に厳しく、一年以下の懲役、または三十万円以下の罰金刑に処されます。懲役および(心理職の)罰金刑ですから、当然、四十条、三十二条にも当てはまることになると考えられます。
 
【秘密保持義務の例外】
 秘密保持義務があるから、いつでも秘密を他者に開示してはいけないというわけではありません。秘密保持義務の例外について、簡潔に伝えると、次のような場合が考えられます。
 自傷他害など、クライエントやクライエントの周囲に対して差し迫った危機があるとき
 ・虐待が疑われる場合
 ・法律で定められている場合
 ・クライエントの精神的な問題を理由に提起した裁判で必要とされる場合
 ・クライエントのケアに関わる専門家同士で話し合う場合
 ・クライエントの明確な意思表示
(参考)
 金沢吉展(2006)臨床心理学の倫理を学ぶ 東京大学出版会
 子安増生・丹野義彦(2018)公認心理師エッセンシャルズ 有斐閣
 
 しかし、これらはケースバイケースであり、自傷他害の恐れがあるから即通報して良いというものでもありません
 例えば、電話相談など電話を切られてしまえばクライエントとのコンタクトの取りようがない場合でも、クライエントと電話が繋がっている間は警察に通報することを伝える配慮が必要になると考えられます。
 また、クライエントがカウンセリングの中で初めて開示したような情報は、他の専門職に伝えて良いか許可を取って伝えることが秘密保持義務としても、治療関係のためにも必要でしょう。
 秘密保持義務の例外については、この記事では伝えきれませんが、実務的な運用としては、業務上秘密保持義務の例外となりうる状況について組織単位で十分な検討を重ね、しっかりとルール化する必要があると言えます。
 
 興味がある方は、次の文献などを参考にしてみてください。
<参考文献>
OD>臨床心理学の倫理を学ぶ (東大出版会)※OD(オンデマンド)版以外は高いので、必ずOD版を買うようにしてください。

第四十二条 連携等

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条文
公認心理師は、その業務を行うに当たっては、その担当する者に対し、保健医療、福祉、教育等が密接な連携の下で総合的かつ適切に提供されるよう、これらを提供する者その他の関係者等との連携を保たなければならない。
2 公認心理師は、その業務を行うに当たって心理に関する支援を要する者に当該支援に係る主治の医師があるときは、その指示を受けなければならない
 
【第四十二条のポイント】
 第四十二条第一項では、「要支援者のために他の職種ともきちんと連携しなさい」と言っています。しかし、より重要なのは第二項です。第二項では、「要支援者が精神科治療を受けている場合、その主治医の指示を受けて支援を行いなさい」となっています。

【罰則】
 第四十二条の第二項に違反した場合は、三十二条第二項に定められているように、登録取り消しとなります。
 

第四十三条 資質向上の責務

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条文

公認心理師は、国民の心の健康を取り巻く環境の変化による業務の内容の変化に適応するため、第二条各号に掲げる行為に関する知識及び技能の向上に努めなければならない。 

【第四十三条のポイント】

 第四十三条は、「努めなければならない」と努力義務となっています。そのため、罰則は決められていません。 とはいえ、公認心理師法を守り、第二条にある4つの業務を実践すれば、どうしても第四十三条は守ることになると思います。