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公認心理師過去問解説 2018年午前 第一問 サイコロジカル・ファーストエイド

現任者、いわゆるGルートの受験できる期間が終了したので、これからは、やや専門的な内容も含めながら、時間をかけて公認心理師の過去問を解説していきたいと思います。

 

■過去問解説 目次■

 

では早速、第一回、2018年 午前 第一問から見ていきましょう。

 

【問題】

公認心理師試験 2018年 午前 第一問

 

サイコロジカル・ファーストエイドを活用できる場面として、最も適切なものを1つ選べ。


1 .インテーク面接
2 .予定手術前の面接
3 .心理検査の実施場面
4 .事故現場での被害者の救援
5 .スクールカウンセリングの定期面接

 

 

 

【答え】

4

 

【解き方】

 これは、単純にサイコロジカル・ファーストエイド(PFA)を知っているかどうか」で即答可能な問題です。加えて、仮に知らなかったとしても、救急箱にFirst Aidと書いてあったりするので、救急場面に使うのかな?と想像すれば、簡単に解けてしまいます。日本語訳すると、「心理学的な最初の手当」「心理学的応急手当」といった感じでしょうか。日本語訳できるだけでも答えが導けそうです。
 ただ、せっかくなので他の選択肢を見てみましょう。

 ●1.インテーク面接は、初回面接からクライアントの見立ての概要をまとめるまでの数回の面接を指します。クライアントとの関係性を作り、問題の背景や成り立ちを把握し、今後の方針についてクライアントの合意を得ることなどを行います。
 ●2.予定手術前の面接、PFAを知らない状況でこれを見ると怪しく感じるかもしれません。この選択肢を作った人は、ERAS (Enhanced Recovery After Surgery)を意識していたのではないかと思います。ERASでは、患者の術後早期回復を目指し、手術前のカウンセリングや情報提供~術後のリハビリに至るまで、心身への影響の大きい手術を控える患者をチーム医療で支えます。第一回試験の第一問だけに、正答ではない選択肢にもこだわりを感じますね。
 ●3.心理検査の実施場面、インテーク面接と同様の姿勢で、まずは被検査者との関係性を作り、安心して検査に臨んでもらえるようにすることが大切です。「心理学的な最初の手当」を活用する場面ではないでしょう。
 ●4. 事故現場での被害者の救援 これが正解です(解説は後程)。
 ●5.スクールカウンセリングの定期面接「定期」面接ですので、事前に予約を取り、面接していると考えられます。ただの「面接」であれば、学校で起きた重大なショックを伴う出来事の直後に行われる面接の可能性もありますが、定期面接ですから、First Aidに該当するとは考えにくいでしょう。

 例えPFAを知らなくとも、公認心理師の受験者であれば、この時点で、選択肢1と3、できれば5までは除外してほしいところです。
 2の選択肢を除外するには、知識も問われます。しかし、「予定手術前の面接」という内容から、インフォームドコンセントなどを想定することができれば、「心理学的な最初の手当て」という直訳も併せて考えて、4を選ぶことが出来るのではないかと思います。

 ここで「解けるから終わり」としてしまうのはもったいないです。サイコロジカル・ファーストエイドには、心理支援職に求められる必要な要素が詰まっています。せっかくなので、サイコロジカル・ファーストエイドについて、試験に出るポイントをまとめながら、理解していきましょう。

サイコロジカル・ファーストエイドの解説】

【目的】

サイコロジカル・ファーストエイド(Psychological First Aid:PFA)は、災害やテロ等の直後に、子ども~大人までを対象に、それぞれの段階に適切な支援を行うことを目的としています。支援対象に、支援者も含まれる点も重要なポイントになります。
 PFAは、災害直後からスタートします。要支援者の災害初期の苦痛を和らげ、短期的な適応と長期的な適応を見据えて、要支援者の適応的な対処行動を促進する支援を行います。

【PFAのメリット】

 ・災害直後から、メンタル面、実生活のサポートを早期に開始できること
 ・被災者への支援として、既に実践が積まれ、効果が実証された支援であること
 ・要支援者の発達、文化的な側面に配慮した支援であること
 ・要支援者は、専門家が不在になった後も、セルフケアができるような資料を得られること

【PFAの基本】

PFAにおいて、専門家には次のような技能が求められます。
 ・心理的トラウマと今後のリスク、回復経過について、研究結果を基にした支援
 ・災害現場に適用可能で、実用性のある支援
 ・生涯発達のそれぞれの段階に適切な支援
 ・文化的に配慮された、柔軟な対応

【PFAにおける基本方針】


 1.物心両面での支援:共感的な姿勢で被災者の精神面をサポートするだけでなく、食料や毛布など、必要な物資の提供も含めて行う。
 2.アセスメント:被災者の身体疾患の有無も含めて、早期かつ適切なアセスメントから支援につなげる
 3.情報提供:専門家の役割、できることできないことを明確化したり、適切な情報提供を行う。
 4.連携:被災者の周囲の人とのかかわりを促進し、できるだけ早く周囲のソーシャルネットワークとつなぐ。専門家による支援が撤収した時を見据え、後に残る支援体制を構築する。

【専門家として求められる態度】


 ・被災者が専門家にアクセスできるように、専門家自ら声を掛けに行ったり、支援が必要な人を探しに行く態度(アウトリーチ
 ・被災者に対して、まずは自己紹介を行い、穏やかなトーンで、慎重かつ落ち着いて声をかける
 ・距離の取り方や身体接触の程度など、文化や多様性に考慮した対応を行う
 ・支援システムの枠組みの中で、自らできる支援を理解し、その範囲を守る。
 ・専門家自身でセルフケアをすることができる。

【オリジナル問題】

 

オリジナル問題

災害時の公認心理師の支援として、最も適切なものを1つ選べ。

 

1. 被災直後、特に男性は、平然と振舞っていても心理的なダメージを追っている場合があるため、全員に支援が行き届くように、個別に話を聞いて回った。
2. 支援を通して、公認心理師自身にも不安障害の初期兆候とみられる症状が現れたが、被災者支援を優先した。
3. 被災直後、被災者の様子から心理的な支援が必要だとアセスメントしたが、ひとまず安全なテントで休ませて、水を提供した。
4. 被災直後、被災者が自ら自身の経験や今の感情を話し始めたため、個別にカウンセリングを行い、気持ちを吐き出せるように支援した。

 

【答え】

3

<h4>【オリジナル問題解説】
1. 被災者全員に支援が必要だと考えるのは、「支援の押しつけ」になります。「何か困っていることはありますか?」と声をかけて回る姿勢が大切なので①は×です。また、大規模災害直後は、自殺者が減少する現象があり、ネムーン効果として知られていますが、「特に男性は」とする根拠もありません。
2. 支援者はまず、セルフケアできることが大切ですが、被災者支援を通して支援者もダメージを負う場合も少なくありません。そこで、PFAでは、支援者も支援を受けることを想定しています
3. PFAは、まず安全、食料の確保を優先するため、テントで休ませて水を飲ませるという対応は適切です。
4. PFAで心理的なカウンセリングは行いません。また、災害時の感情を話させることは、心理的デブリーフィング」と呼ばれ、PTSDへの対応として逆効果であることが研究で明らかになっています。※この心理的デブリーフィングは、公認心理師試験必須です。確実に覚えておきましょう。

 

 

【参考】


サイコロジカル・ファーストエイドについて、より詳しい情報をご覧になりたい方は以下をご利用ください。

・ウェブサイト
1.WHOが発行するPFAガイド(pdfが開きます)
https://saigai-kokoro.ncnp.go.jp/pdf/who_pfa_guide.pdf
2.アメリカ国立PTSDセンターが発行するPFAガイド(pdfが開きます)https://www.niph.go.jp/topics/PFAmanual.pdf ←無料公開されていますが、書籍で買おうとすると1320円します。
3.厚生労働省ゲートキーパー養成のために作成した資料(pdfが開きます)https://www.mhlw.go.jp/content/text3_06_19-20.pdf


・書籍
1.メンタルヘルス・ファーストエイド: こころの応急処置マニュアルとその活用(Amazonhttps://amzn.to/3Prd1A4 
※私が学生時代に実習をした夜間の自殺相談窓口では、待機時間でこの書籍を読むように勧められました。参考になる本でしたが、少し高いので、お近くの図書館で探すと良いと思います。私の自宅の最寄り図書館には置いてありました。