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【公認心理師試験対策】一時保護【前編】

 前回の記事で解説した、2018年公認心理士試験 午前 第二問では、一時保護の中でも緊急一時保護に関する知識が問われていました。

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 この問題は、一時保護に関するフローチャートを確認すれば、すぐに答えにたどり着いてしまう内容だったため、あまり詳しい解説ができませんでした。しかし、一時保護の制度自体は、児童福祉法で定められているだけでなく、児童虐待防止法の文脈でも出てくるため、複雑です。
 にもかかわらず、心理職試験向けの参考書を見る限り、あまり詳しい説明は書かれておらず、概要しか理解できません。試験だけでなく、実践も見据えた勉強として、きちんと理解しておく必要があります。
 そこで、今回の記事では、一時保護を前編後編に分けて解説したいと思います。

目次

 

【一時保護とは】

 一時保護とは、児童の安全の確保、保護を目的とした措置のこと。児童福祉法第三十三条で定められている行政処分の一つ。一時保護は、児童虐待に関する通告、または市町村等からの送致を受けた場合に、必要に応じて児童相談所長、または都道府県知事の権限により実施される。
 一時保護の期間は原則として2か月を超えてはならない。ただし、児童相談所長、および都道府県知事が必要と判断した場合は、家庭裁判所の承認を得て、一時保護を延長することができる。

 

【一時保護の目的】

 一時保護の第一の目的は、子どもの生命を保護することです。ですが、命さえ確保できれば良いというわけではありません
 一時保護では、「現在の環境におくことが子どものウェルビーイングにとって明らかに看過できない」と判断されるときに、一時保護を行うべき、とされています。

 要するに、「今ピンチ!」も「このままじゃいつかピンチになる!」も、「ピンチではないけど、明らかに子どもにとって良くない環境だ」も、すべて助けられるようにしようということです。
 ただ、実際には、保護者の病気などの問題があって、子どもを「育てたいけど育てられない」保護者の要望を受けて保護するという場合もあります。他にも、子どもの援助方針を判断するための行動観察心理療法などの支援が必要だけど、通所での継続した支援が難しいと判断される場合に行われる短期入所指導などもあります。

 そのため、「一時保護=虐待ではない」ということも知っておく必要があります。

【一時保護の法的根拠や基準】

 一時保護の制度は、児童福祉法第三十三条で「児童相談所は、必要があると認めるときは、(中略)児童の一時保護を行い、又は適当な者に委託して、当該一時保護を行わせることができる」と定められています。
 また、児童福祉法第十二条で、児童相談所には一時保護可能な施設を設置することになっています。基本的な一時保護は児童相談所で行われます。

【虐待の発覚から一時保護までの流れ】

 図は、厚生労働省で解説している「子ども虐待対応・アセスメントフローチャートhttps://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv12/05.html)」を使用しています。そちらもぜひご覧ください。

 上の図からも分かるように、一時保護をするまでの調査は、①通告→②受理会議→③安全確認→④決議→⑤保護の流れで進められます。詳しい内容を見ていきましょう。

 

①通告

 虐待を受けている本人、保護者、または近隣住民からの通告、もしくは、児童相談所への送致を受けて、一時保護が始まります。
 虐待通告は、電話窓口「189(いち早く)」や近隣の児童相談所などに直接相談されるケースが多いようです。基礎中の基礎の知識です。

②緊急受理会議

 通告受付と同時に「通告受付表」は順次記入され、迅速に緊急受理会議が開かれます。この「迅速」という点が難しいですが、児童虐待防止法第八条では、迅速な対応を努力義務としていますし、厚生労働省「休日や夜間に関わりなくできる限り速やかに対応する事を原則とすべき」としています。また、児童相談所運営指針では、通告後48時間以内に対応することが望ましいとされています。

 

③子どもの安全確認

 子どもの安全を確認するフェーズに入ります。この安全確認は、一時保護の要です。子どもの安全確認は、まず、家庭訪問が基本です。家庭訪問、学校訪問で子どもの様子が確認できない場合に次の4つのステップ(出頭要求、立入調査、再出頭要求、臨検・捜索)に進みます。試験対策として必須の知識ですので、しっかり解説したいと思います。
 よく、「児童相談所は強力な権限を持っている」と言われますが、この手順を見れば、いかに児童相談所が慎重に対応を進めているかが分かっていただけると思います。

●出頭要求

 児童虐待が疑われる場合、第一に子どもの状態を確認し、安全を確保する必要があります。その場合、必ず対面で子どもの安全を確認します。子どもと対面できない時点でおかしな状況なので、対面は必須です。
 都道府県知事は、虐待が疑われる子どもの保護者に対して、子どもを同伴して出頭することを求めることができます。これが、出頭要求です。

●立入調査

 出頭要求に保護者が応じない場合、都道府県知事は、児童相談所の職員などに立入調査をさせることができます。児童相談所は、必要に応じて警察の協力を要請することができます。現場判断が必要な部分は、児童相談所長が決定できた方がスムーズということでしょうね。
 児童相談所職員は複数(最低2名)で、立入調査を行い、詳細な聞き取り、情報収集を行います。必要に応じて写真撮影など、裁判での証拠も収集します。
 立入調査は、私的空間に踏み込むことになるので、家庭に大きな影響を与えます。ここがまさに心理職の腕の見せ所と言えます。

●再出頭要求

 保護者が正当な理由なく立入調査を拒否することや、子どもに嘘の証言をさせて立入調査を妨害するなどの行為は、児童福祉法第61条罰金刑が課されます。
 それでも、出頭要求や立入調査を拒否する保護者もいるため、保護者に対して、再度子どもを同伴して出頭するように求めることができます。これが再出頭要求です。

●臨検・捜索

 保護者が再出頭要求さえ拒んだ場合であって、児童虐待が行われている「疑い」がある場合に初めて、臨検・捜索が行われます。出頭要求の時などは虐待の「おそれ」でしたが、臨検・捜索の虐待の「疑い」は、より虐待の可能性が高いことを示します。
 ここまで子どもの安全確認ができない時点で異常事態ですから、この臨検・捜索は、保護者の意思が無くとも住居に立ち入り、子どもを捜索することができるようになります。
 とはいえ、この臨検・捜索はかなり強い権限の行使ですから、実行には、地方裁判所家庭裁判所、または、簡易裁判所の裁判官の許可を得なければなりません。そのため、臨検・捜索まで至ったという話は、めったに耳にしません。

 

④決議

 上記4つのプロセスによる調査結果を基に、一時保護の要否が決定されます。決定権を持つのは、基本的に、児童相談所ですが、都道府県知事にも決定権が認めらています。
 そして、この決定に基づき、児童の安全確保、保護が行われるというのが一時保護の大まかな流れです。

 

前半はここまで。

 前半では、一時保護に至るまでの法的な根拠や調査方法などを解説しました。
 後半では、一時保護の判断に使用するフローを改めて確認しつつ、一時保護期間中の措置や一時保護後の対応、一時保護の留意点などについても見ていきたいと思います。

 最後までご覧いただきありがとうございました。