前回は、・公認心理師法(◆平成27年09月16日法律第68号)
の大まかな流れをご案内しました。改めて読み返してみましたが、ちょっとノリが寒い感じで、恥ずかしい内容でしたね。
今回は、公認心理師試験に出題される部分を一条ずつ丁寧に解説していきたいと思います。一度にすべてを解説する自信が無いので、まずは第一条~第三条、公認心理師法の前半のポイントを解説していきます。
法律であっても、理屈を覚えることが大切です。では、早速見ていきましょう。
第一条:目的
条文
第一条 この法律は、公認心理師の資格を定めて、その業務の適正を図り、もって国民の心の健康の保持増進に寄与することを目的とする。
【第一条のポイント】
第一条は、何のために公認心理師を作るのかという目的です。
テスト対策的に言うと「業務の適正を図る」「国民の心の健康の保持増進に寄与する」この二つを覚えておけば大丈夫です。
ちなみに、「国民の心の健康の保持増進」は2006年に発表された「労働者の心の健康の保持増進のための指針」など、厚生労働省がらみで頻出するフレーズです。
例えば、「心の健康の保持を目的としている」と選択肢に入っていたら、厚生労働省が保持だけを求めるはずは無いので、「おや?」と疑う目線を持てるわけです。
「心の健康の保持増進」これはフレーズごと覚えてしまいましょう。
(余談)
心理の資格取得後に産業領域の仕事を目指している方は、メンタルヘルスマネジメント検定Ⅰ種試験(https://www.mental-health.ne.jp/)を受験する方もいるかと思います。「労働者の心の健康の保持増進のための指針」は、公認心理師試験でも出題されますが、メンタルヘルスマネジメント検定試験では必出ですので、しっかりと目を通しておきましょう。
【第一条の考察】
心理職はこれまで、阪神淡路大震災の折、「心の専門家」を名乗って現場でサポートを行おうとしましたが、一部では現場を混乱させる結果となったと指摘された苦い経験があります。
また、現在でも、「●●カウンセリング心理士」などのいかがわしい名称で何を行っているのか分からないカウンセラーが跋扈している現状もあります。
「心理支援を受けたい人に、きちんとした心理支援を届ける」
公認心理師が社会からこうした役割を求められていると思えば、目的にある「業務の適正」この部分には、非常に重い意味が込められていると考えるべきでしょう。
第二条:定義
条文
【第二条のポイント】
第二条は難しい言葉を使っていますが、要するに「アセスメント、カウンセリング、地域援助、情報提供が公認心理師の仕事ですよ」ということですね。細かい表現を問題にしてくる可能性もありますから、きちんと暗唱できるようにしておきましょう。
ちなみに、第二条は、臨床心理士の皆さんにはおなじみ、臨床心理士の4つの専門業務(①:臨床心理査定、②:臨床心理面接、③:臨床心理的地域援助、④:①~③に関する調査・研究)を参考にしたのでしょう。①~③は公認心理師法第二条と関連しますが、④は公認心理師法における「教育及び情報の提供」とやや異なるようです。
なぜでしょうか。以下、私の見解を感想としてお伝えします。
【第二条の考察】
私は、第二条の4つ目に記載されている「教育及び情報の提供」は、臨床心理士と公認心理師の差別化が図られるポイントになるだろうと考えています。
というのも、臨床心理士は、「予約を取ってカウンセリングにやってきた人」を対象としてきた背景があります。臨床心理士を養成する大学院課程でも自分から積極的に動くことを想定した教育・実践を積む機会が少ないのです。多くの場合、自分から積極的に動くことについて学ぶために、自分から積極的に動いて情報収集しなければならないというパラドックスに陥ります。
そのため、スクールカウンセラー(SC)として学校現場に出ても、「SCとは挨拶程度の会話しかしたことがない」とか「一日中部屋で何をしているか分からない」などと必要性を疑問視されることも少なくありませんでした。
こうした臨床心理士の姿勢は、ウエイティングモード(待ちの姿勢)と批判されました。そこで、臨床心理士は「シーキングモード(自ら積極的に助けを必要とする人の元へ出向く姿勢)を目指そう」と考え、その結果、生まれたのが、先ほど臨床心理士の専門業務で紹介した③「臨床心理的地域援助」だったのです。
その結果、多くの臨床心理士が「要支援者を取り巻く環境まで含めて支援しよう」「他の職種ともっと積極的に連携しよう」と取り組んできました。近年では、一定の成果を挙げてくれた諸先輩方のおかげで、臨床心理士に対する見方が変わりつつあると感じています。
しかし、一方で、未だに「何をしているのか分からない」「専門用語ばかりで肝心なことが伝わらない」などと批判を受ける臨床心理士が多くいることもまた事実です。臨床心理士が、どれだけ調査・研究をしていても、心理職以外の専門職が、関係者が、要支援者とどのように関われば良いのか伝わらなければ意味がないのです。
こうした風潮は、臨床心理士全体に色濃く残っています。実際、シーキングモードの重要性を訴えている「日本コミュニティ心理学会」は、2021年11月現在、臨床心理士会から更新ポイントの対象となる学会として認定されていません。
私は、上記のような臨床心理士の変わらない風潮、姿勢に対する強烈な批判として、「調査・研究」が、「教育及び情報の提供」と言い換えられたのだろうと考えています。いや、私を含め、臨床心理士などの心理支援職が、きちんと「要支援者に届く心理支援を行っていくことが求められている」と自覚する必要があるのだと感じました。
ちなみに、二条の冒頭にチラッと書いてありますが、公認心理師は、第二八条で規定されるように、登録しないと名称使用できません。試験には出にくいと思いますが、実務上は重要なので覚えておきましょう。
第三条:欠格事由
条文
次の各号のいずれかに該当する者は、公認心理師となることができない。
【第三条のポイント】
第三条は、公認心理師となることができない人の条件を定めているわけですが、基本的には、当たり前のことが書かれていると考えてよいと思います。 一つ目で挙げられている、文部科学省令・厚生労働省令はこちらで確認できます。(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=80ab6108&dataT) もともとは、成年被後見人などと具体的に規定されていましたが、その後以下の通り改められました。第三条第一号の文部科学省令・厚生労働省令で定める者は、精神の機能の障害により公認心理師の業務を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者とする。要支援者の支援をする者に、正常な判断や意思疎通ができないなら、要支援者の支援は難しいと考えられるため、これは当然かなと思います。 二つ目は、禁錮以上の刑に処せられた人が、執行を受けることがなくなった日から2年以内はダメということですね。ちなみに、調べたところ、禁錮刑以上というのは、禁錮刑と懲役刑と死刑らしいです。要するに、刑務所に入れられた人くらいに考えても良いのかなと思います。